日本一鍋プロジェクト

日本一鍋は鍋の場のパワーを活用し、技術者、生産者などモノの作り手を支援するプロジェクトです。

牛への愛によってさらなる高みへ: 村田勝己さん (畜産農家、精肉店経営)

牛への愛によってさらなる高みへ: 村田勝己さん (畜産農家、精肉店経営)

DSC05658

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote

富山県の生産者さんや工芸作家さんたちを応援するシリーズです。

富山市で牛の畜産農場・池多農場と、肉販売店・メッツゲライを営む、村田勝己さんに話を聞きに行きました。

どんな想いで、モノを作っているのか、その想いを聞いてきました。

とやまマリアージュとの連動企画。

食のイベント「富山week (2/18-23) & 富山ナイト (2/24)」

ここでは、村田さんが作った、ハムがいただけます。

少年の友達が消えた日

少年は、牛と友達のように毎日触れ合っていました。

藁をやったり、すり寄ってくる背中をなでてやったり。
牛はペロペロと少年の顔をなめました。

彼は牛に牛太と名前をつけました。

その日も、彼は小学校から帰ると、いつものように、牛太のいる農場に遊びに行きました。

ところが、いつもいるはずの場所に牛太がいません。
周りを探してみましたが、どこにもいません。

お父さんを見付けて、呼びかけました。

「ねえ、牛太はどこいったの?」

お父さんは、彼を見つめたまま、何も言いません。

何か不安になってきました。

「ねえ … どこ?」

一つ息を吐いて、お父さんはゆっくりと口を開きました。

「牛太はな、人様のお役に立つために遠くへ行ったんだ」

加工肉に込めた想い

村田さんはお父さん、弟さんと農場で牛を育てています。

それだけでなく、お肉屋さん「メッツゲライ」も営んでいます。

その肉屋のショーケースは一般的な日本の肉屋さんとは違っています。
ほとんどのスペースは、ハムやソーセージなど、
たくさんの種類の加工肉がずらっと並べられています。

ヨーロッパで見かける肉屋さんはこんな感じが多いです。

DSC00636

お薦めは牛肉のリエット。イメージはやわらかいコンビーフ。
フランスパンに塗っていただくと、肉の触感、油の甘みが口に広がります。

そして、ビーフジャーキー。

人気商品はいつも売り切れ状態です。

でも、決して、増産はしません。

ここに「牛飼い」の村田さんが肉屋さんを営む理由があります。

「牛一頭、使い切りたいんです」

普通のお肉屋さんは、肉を売ることが商売です。
お客さんが求めるものを売ります。

例えば、もも肉が売れるなら、もも肉をたくさん仕入れて、それを売ります。
牛の体の部位で人気のない部分は「余った肉」として、安売りされます。

「僕はイヤでした」

「余るような部位も『おいしい!』って言ってもらえるように、
加工肉にするんです。それも最高の『おいしい!』と言われるように。」

村田さんのソーセージは、先日農林水産大臣賞を受賞しました。
「生産直売」というだけでよしとせず、自分が生産者だということを言わなくても、
最高においしいと評価されるソーセージを目指した結果です。

最高の加工肉を作るため、本場ドイツで修業しました。

どうして、ここまでするのでしょう?

村田さんがしみじみと言いました。

「そうすれば、牛が浮かばれるじゃないですか。」

浮かばれる?

子供の頃、自分のところで飼われている牛がお肉になることを知りませんでした。

お父さんのところに遊びに行って、お手伝いをしました。
餌をやったり、体を撫でてやったり、そうすると牛も村田少年になついてきます。
牛に名前をつけるほどになりました。

ある日、突然、その牛はいなくなりました。

そして、お父さんから、牛が「お肉になる」運命にあることを説明されました。

「しばらく、農場に行けませんでした。
こいつら、みんなお肉になるんだって考えると、かわいそうで…」

村田さんは大学を卒業すると一度サラリーマンになりました。
その後、脱サラして、牛飼いの仕事をする時、
直売のお肉屋さんをやると考えた時に、子供の頃の牛たちとの思い出が頭によぎりました。

DSC05665

肉としては売れない部分でも、加工すれば、「おいしい!」って言ってもらえる!

「一頭、余さず使い切って、おいしいと言ってくれれば、
牛が浮かばれるじゃないですか?」

「丸ごと使い切る」が大前提なので、売れ筋の部位をたくさん売ることに意味がないのです。

余った肉の部位、さらには軟骨や血液までも、加工肉には使うことができます。
肉の本来の旨味を生かしたハム、ソーセージはとても味わい深いです。

DSC05684

使い切る部位自体も量があるわけではないので、自ずと限定生産になるのです。

牛たちへの「愛」が、村田さんに、加工肉の販売、加工肉のあくなき探求をさせるのです。

ヨーロッパからの牛肉文化の豊かさ

「日本人が牛肉を食べ始めたのは高々明治に入ってからですからね」

牛を丸ごと使い切る考え方は、ヨーロッパではもともとやっていたことです。
だから、ヨーロッパのお肉屋さんでは加工肉もいろんな種類が売られています。

狩猟民族だから、採れた獲物は大事に食べます。
お父さんが採ってきた肉の一部が、固いからと言って食べないわけにはいきません。

日本人にとって「牛を丸ごとおいしくいただく」という発想が一般的ではありません。
おいしいところが高値で売れて、その他の部位は安値にされてしまいます。

牛を飼うだけでは儲からないから、肉の加工もして売るということは、
畜産農家さんのビジネスとしても優れています。

ただ、村田さんの場合は、ビジネスももちろんですが、
全ての部位をおいしい!って言ってもらうことで、牛への「愛」を示したいのです。

作り手の愛と想いが、お肉やソーセージに込められます。

「だから、お店に立っていたいです。」

土日はなるべく店頭に立って、お客さまとコミュニケーションを取ります。

お客さまからの感想も聞けますし、
何よりも自分が牛のこと、加工肉のことを伝えられるからです。

富山の雪とともに

「こんな田んぼばかりのところに買いに来てくれるのはありがたいですね」

富山県の池多地区には田園風景が広がっています。

広大な耕地の中に、点々と民家があります。

村田さんのお店も、農場も、真っ白に広がる平野の中にぽつんと立っています。

DSC05690

こんなところで本格的なソーセージが売られていることに驚くお客さまも多いです。

「雪の時期は頭を動かす時間ですね」

牛の世話やお店があるので、通年動き回っている村田さんですが、
2月3月は比較的時間に余裕がある時期です。

雪の存在がいい具合に生活にメリハリをつけてくれます。

そんな時間を利用して、村田さんはフランスに研修旅行に行ってきました。

それは、もっともっと、牛への愛情を形にするためです。

牛への愛、富山への愛が深まっていく

村田さんの次の夢は、赤身の肉をさらにおいしく味わえるようにすること。

「霜降り肉だと200グラム食べるのは大変ですが、
赤身肉だと女性でも300グラムペロリといけちゃいます。」

ヘルシーに肉をいただくのにも大きく貢献しそうですが、
それだけではありません。

やはり、愛があるのです。

サシが入った、いわゆる霜降り肉を持つ牛は高値で売れます。
一方で、そうでない牛の値は抑えられます。

「同じに育ったのに、おかしいと思うんです。」

ここにも、どんな牛でも「おいしい!」と言ってもらいたいという、
牛たちへの愛情が感じられます。

フランスで学んでいたのは、肉の熟成技術。
微生物を使って熟成した肉は、旨味が出るし、独特の香りが出ます。

実はこれが「富山らしさ」をもっと打ち出せる可能性を秘めています。

例えば、富山に多く存在する酒蔵に昔から生息している菌を使うことができるかもしれません。
ここにしかない菌ですから、ここでしか作れない熟成肉を作ります。

聞いていて、きっと日本人の口に合う味や香りを持った、
富山のお酒や他の食材に合う熟成肉の誕生を予感しました。

富山の酒蔵とのコラボレーションも近い将来あるかもしれませんね。

DSC05694

「欲張りですよね?」

「止まらないんです!」

これまで、村田さんの行動を見ていると、なんでこんなに頑張れるし、次々とアイデアが出てくるのかと、
疑問に思うことがありました。

今回の話を聞いて納得しました。

愛でした。

「牛たちへの愛」が村田さんをますます輝かせます!

DSC05658

« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>