富山県の生産者さんや工芸作家さんたちを応援するシリーズです。
富山県黒部市在住の手作り時計作家の伊藤美沙さんに話をうかがってきました。
どんな想いで、モノを作っているのか、その想いを聞いてきました。
とやまマリアージュとの連動企画。
食のイベント「富山week (2/18-23) & 富山ナイト (2/24)」
酢飯屋さんのギャラリーでは、伊藤さんが作った手作り時計が展示されています。
自分の時間を持つための時計
伊藤さんの作る時計は、「自分の時間を持つ」ための時計。
文明社会で暮らしていると、時間に縛られていると感じることがあります。
時計は「かっちり、きっちり」「正確さ」の象徴。
時計は私たちがスケジュール通りに行動することを見張っています。
そんな、これまでの時計の役割が「見張り番」なら、伊藤さんの時計の役割は「パートナー」。
真鍮を使ったアンティーク調の時計。見ていて、ホッとします。
時計でありながら、私たちを時間から解放してくれます。
「大丈夫、自分のペースでね!」
「ちゃんと時間は見ておくから安心してね」
そんな言葉を投げかけてくれます。
マイペース。
今の伊藤さんは自分らしいペースで柔軟に振る舞っています。
子供の頃は、学校の先生にそのマイペースっぷりを注意されてきました。
伊藤さんの時計は、そんな子供の頃の自分にも「大丈夫だよ」と言い続けているようです。
手作り感のある「ふわっとした」外見が心を和ませますが、その裏で動いている部分は実は高性能なクウォーツ時計です。
この構成が価格を庶民的なものにしているとともに、「正確に時を刻む」という時計本来の機能はキープしています。
決して「時間はどうでもいい」と現在社会から隔離するようなものではなく、適度に文明社会と接点をもちつつも、「自分らしい時間」を持てるような、絶妙な存在感を持っています。
普段は時間を意識しなくても、時計の秒針を見た時に、「やっぱり時間は進んでいるんだな」と思うことができます。
守ってあげなきゃいけない時計
伊藤さんに時計とどういう風に関わって欲しいか聞いてみました。
「大切にして欲しいです。」
「いつも身に付けて欲しいです。」
手作り時計はちょっと水に弱いです。
強い雨が降るような時は、ちょっと濡れないように気を使う必要があります。
革のベルトはやがて劣化してしまうので、まめに交換が必要です。
「守ってあげなきゃってことが愛着を生むのかもしれません。」
きっちりしているはずの時計なのに「スキがある」。
それもホッとする存在になっている理由の一つなのでしょう。
富山での時計作り
「時計作っている時にいちばん好きなのが、針を取り付ける時です。動き出す瞬間がいいんです!」
文字盤など作り込んできた作品が、時計としての命を吹き込まれる瞬間。「時計になった」瞬間。いいですよね!
伊藤さんと手作り時計との出会いは偶然でした。
東京に出てきた後、たまたま入ったお店で、「いいなあ」と思える時計に出会い、思わず買ってしまいました。
それまで時計を買うことに興味がありませんでしたが、「この時計なら」と思えました。
手作り時計の師匠に弟子入りし、時計作家としての技術を学びました。
やがて、「30歳になったら富山に戻る」と決心し、故郷の富山に戻って独立しました。
東京ではせかせかとしたところがありましたが、富山では気持ちに余裕が出ました。
「ひと手間かけられるようになりました。」
「丁寧に作れてます。」
伊藤さんが本日身に付けていた時計には、細かい粒があしらわれています。
こういう手が込んでいるものは富山に来ていなかったら作っていなかったそうです。
今は、自分で時間をコントロールしている実感があり、自由を感じています。
「新しいモノを作っているのは、すんごい楽しいです!」
一度製作モードに入ると、なかなか止まらなくなります。
一つ作って、「もっとこうしたい」が出てくると、次の一つでそれを試します。
すると、次々とアイデアが湧いてきます。
思う存分、アイデアを形にしていきます
「いろんなものを見たりします。富山の景色とか、葉っぱのような自然の形とか」
最近は山もちょっと登るようになりました。ボルダリング (岩登り)もやります。
「山って空気がリンッとしてて、いいんですよね」
山の形を時計の形に取り入れたこともあります。
この冬はまさに製作の期間で、引きこもっていたとのこと。
じっと窓の景色を眺めている猫と一緒に製作に打ち込んでいました。
富山のお薦めを聞くと、
「しろえびせんべいっておいしいですよね?黒こしょう味ってあるんですよ!」
というマイペースな答えが返ってきました。
伊藤さんが作る時計、富山、そして、伊藤さん自身、とっても似ていると感じました。